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「命売ります」を読んだ感想

本日の読書。

命売ります」 三島由紀夫ちくま文庫

 

この作品は、三島没後45年の2015年に突如人気が広がり、1ヶ月で7万部重版され、よく2016年にベストセラーになったそうだ。

往年の文豪の作品の再発見・再評価の波が近年高まりつつあって、本作品も文庫営業担当者が「隠れた怪作小説 発見!」という帯をつけて販売してみたところ、突然売れ出したということらしい。

確かに書店でこの帯は目を引いて、三島由紀夫に対してなんとなく持っていたとっつきにくいイメージを疑ってみたくなるような気持ちになる。

 

そんなわけで、三島由紀夫をはじめて読んだ。

物語は淡々と進む。冒頭で主人公は世の中の仕組みが突然わかってしまって、「死ぬ」というアイデアが頭にぴったりとはまり、自殺を試みるが失敗。死に損なってみると、なんでもできる気持ちになって、命を売る商売を始める。

一人目のお客の老人に若妻と一緒に死んでほしいと依頼され、自分だけ生き残ってしまう。二人目の依頼者は主人公を愛してしまい、主人公の代わりに死んでしまう。3人目の依頼でようやく死ねそうに思われるが、やはり生き残ってしまう。

全然死なない。そしてことごとく女性に受け入れてもらえる。ハードボイルドを漂わせる主人公羽仁男(羽仁男って名前もどうなのかと思って、何か物語に絡んでくるのかと警戒していたたけど、なんともなくただのちょっと変な名前だった)。物語中盤、命を売る商売にも息切れ感があり、小休憩するつもりがやっぱり面倒ごとに巻き込まれる。またしても女性がらみ。1回失敗していると言う理由で、自殺という死に方は除外した主人公であったが、自分の意思で命を売って死ぬぶんには覚悟があるが、他人の意思に左右されて知らない間に死んでしまうのはまっぴらだとか言い始める。命を売り始めたころから、死ぬことなんて全然怖くない、生き死ににこだわらない風を吹かせていた主人公が死にたくなくて逃げ始め、エピローグが近づく。

 

生を放棄したように生きることで逆説的な自由を手にした主人公が、選択の余地がなくなると生にどうしようもなくしがみつく。

話の筋的には、もっと短い作品であってもよいのではと感じた。

よくできたショートショートを間延びさせたような作品。