読書とカフェの日々

読書感想文と日記

大人ってなに? そう思って生きてきたの(「ボクたちはみんな大人になれなかった」読書記録)


燃え殻の「ボクたちはみんな大人になれなかった」を読書会のために読んだ。

読書会の課題図書っていうのは自分だったらまず手に取ることがないようなもので、少なくとも次に読もうと思うようなものではなくて、人々の好みの多様さや世の中に存在する本の夥しいこと。読んでみて合うものも合わないものもあるけど、そこそこの受賞作、話題作、古典と呼んでも良いような作品はほぼ読んでよかったと思うようなものばかりで、自分のパターンから抜け出して、バグらせてくれるのでとても良い。ときどきエラーが起こると、進化していけるっていう感じがする。

「燃え殻」ってペンネームは悲観的というか暗いというか感傷的で、真っ白になったジョーとはまた違った趣があって、なんか嫌なこと言いそうなイメージがあったので読むのがちょっと怖いような感じがしていた。麻布競馬場系統の。誰もが持っているむしろ健康的な自己愛とか、自覚ないわけじゃないけどあえてまじまじとみたくないような自分の狡さなどに顔面をぐいと向けられてなおかつ厳しいこと言われそうなイメージというか。でもちょっと読んでみたいような、やっぱり怖いような。
結局は読んでみたらそれほど感傷的でもなく、湿度が高すぎるわけでもなく、読み手を居心地悪くさせるような内容では全然なくて。自分自身すでに若いと思えなくなった大人たちの誰もがきっと共感できるようなあの頃のノスタルジーとか切なさが時々顔を見せてどきっとしたり苦しくなったりしながら、でもちゃんと今の自分で歩いていかなきゃな、歩いていけるなっていう気持ちを受け取り、むしろ爽やかに読了できた。

作品は短い断章からなる構成で、記憶の断片が順不同で想起されては現在の中に溶かされていく。そこにあるのは親愛なるブスである彼女との思い出だけじゃない。あの頃の時代や若さゆえの無謀さ、夢や希望も振り切る速さで必死で生きてきたこと、もう会えない人の記憶。個人的に一番印象的な章は「ギリギリの国で捕まえて」。テレビ番組のテロップを作る制作会社に勤めている主人公が、雪の降るクリスマスの夜にバイクで制作物の配達に出て、アイスバーンで滑ってバイクごと転倒し、左足と左手に大怪我を負う。左手の爪は親指以外途中から千切れてしまっていて、濡れたらダメになってしまうテロップを一人で拾い集めていく。街行くたくさんの人には主人公のことが見えていないようで、社会のうちに数えられていないんだなって考えた時、会社のあるビルで見たことがあるヤクザの男が助けてくれる。ギリギリの国で生きるもの同士にしかわからない痛みと暖かさがあった。痛いシーンは心に残る。内面に映し出された痛みが接着剤になってるみたいだと思った。

 

言いたいことはひとつ。「ありがとう」なんだよ。
あなたのおかげであの日々を超えてきたんだよ。あなたがいなくなってからも、あの時あなたがいたから、ここまでやってきたんだ。万感。